四隅A

778 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:29:55 ID:9j0TgqFm0

1 時計
2 時計
3 時計
4 反時計
5 時計
6 時計
7 時計
8 時計
9 時計
10 時計
・・・・・・

俺が回った方向だ。
そして3回目の時計回りで俺はポケットに入った。
仮にAが最初のスタートだったとしたら、時計回りなら1回転
目のポケットはD、そして同じ方向が続く限り、2回転目のポ
ケットはC、3回転目はB、と若くなっていく。
つまり同一方向なら必ず誰でも4回転に一回はポケットが来る
はずなのだ。
とすると5回転目以降の時計回りの中で、俺にポケットが来な
かったのはやはりおかしい。
もう一度図に目を落とすと、3回転目で俺がポケットだったこ
とから逆算するかぎり、最初のスタートはBの京介さんで時計
回りということになる。1回転目のポケット&2回転目のスタ
ートはCoCoさんで、2回転目のポケット&3回転目スタートは
みかっちさん、そしてその次が俺だ。俺は方向を変えて反時計
回りに進み、4回転目のポケット&5回転目のスタートはみか
っちさん。そしてみかっちさんはまた回転を時計回りに戻した
ので、5回転目のポケットは・・・・・・
俺だ。
俺のはずなのに、ポケットには入らなかった。
誰かがいたから。


779 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:30:29 ID:9j0TgqFm0

だからそのまま時計回りに回転は続き、そのあと一度もポケッ
トは来なかった。
どうして5回転目のポケットに人がいたのだろうか。
「いるはずのない5人目」という単語が頭をよぎる。
あの時みかっちさんだと思って遠慮がちに触った人影は、別の
なにかだったのか。
「ローシュタインの回廊ともいう」
京介さんがふいに口を開いた。
「昨日やったあの遊びは、黒魔術では立派な降霊術の一種だ。
 アレンジは加えてあるけど、いるはずのない5人目を呼び出
 す儀式なんだ」
おいおい。降霊術って・・・・・・
「でもまあ、そう簡単に降霊術なんか成功するものじゃない」
京介さんはあくびをかみ殺しながらそう言う。
その言葉と、昨日懐中電灯をつけたあとの妙に白けた雰囲気を
思い出し、俺は一つの回答へ至った。
「みかっちさんが犯人なわけですね」
つまり、みかっちさんは5回転目のスタートをして時計回りに
CoCoさんにタッチしたあと、その場に留まらずにスタート地点
まで壁伝いにもどったのだ。そこへ俺がやってきて、タッチする。
みかっちさんはその後二人分時計回りに移動してCoCoさんにタ
ッチ。そしてまた一人分戻って俺を待つ。
これを繰り返すことで、みかっちさん以外の誰にもポケットが
やってこない。
延々と時計回りが続いてしまうのだ。
「キャー!」という悲鳴でもあがらない限り。


786 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:29:48 ID:9j0TgqFm0

せっかくのイタズラなのに、いつまでも誰もおかしいことに気
づかないので、自演をしたわけだ。
しかしCoCoさんも京介さんも、昨日のあの感じではどうやらみ
かっちさんのイタズラには気がついていたようだ。
俺だけが気になって変な夢まで見てしまった。
情けない。
朝飯どきになって、みかっちさんが目を覚ました後、「ひどい
ですよ」と言うと「えー、わたしそんなことしないって」と白
を切った。
「このロッジに出るっていう、お化けが混ざったんじゃない?」
そんなことを笑いながら言うので、そういうことにしておいて
あげた。

後日、CoCoさんの彼氏にこの出来事を話した。
俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。
「で、そのあと京介さんが不思議なことを言うんですよ。5人
 目は現れたんじゃなくて、消えたのかも知れないって」
あのゲームを終えた時には、4人しかいない。4人で始めて5人
に増えてまた4人にもどったのではなく、最初から5人で始め
て、終えた瞬間に4人になったのではないか、と言うのだ。
しかし俺たちは言うまでもなく最初から4人だった。なにをい
まさらという感じだが、京介さんはこう言うのだ。よく聞くだ
ろう、神隠しってやつには最初からいなかったことになるパタ
ーンがある、と。


787 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:30:22 ID:9j0TgqFm0

つまり、消えてしまった人間に関する記憶が周囲の人間からも
消えてしまい、矛盾が無いよう過去が上手い具合に改竄されて
しまうという、オカルト界では珍しくない逸話だ。
しかしいくらなんでも、5人目のメンバーがいたなんて現実味
が無さ過ぎる。その人が消えて、何事もなく生活できるなんて
ありえないと思う。
しかし師匠はその話を聞くと、感心したように唸った。
「あのオトコオンナがそう言ったのか。面白い発想だなあ。
 その山岳部の学生の逸話は、日本では四隅の怪とかお部屋様
 とかいう名前で古くから伝わる遊びで、いるはずのない5人
 目の存在を怖がろうという趣向だ。それが実は5人目を出現
 させるんじゃなく、5人目を消滅させる神隠しの儀式だった
 ってわけか」
師匠は面白そうに頷いている。
「でも、過去の改竄なんていう現象があるとしても、初めから
 5人いたらそもそも何も面白くないこんなゲームをしますかね」
「それがそうでもない。山岳部の学生は、一晩中起きているた
 めにやっただけで、むしろ5人で始める方が自然だ。それから
 ローシュタインの回廊ってやつは、もともと5人で始めるんだ」
5人で始めて、途中で一人が誰にも気づかれないように抜ける。
抜けた時点で回転が止まるはずが、なぜか延々と続いてしまう
という怪異だという。
「じゃあ自分たちも、5人で始めたんですかね。それだと途中
 で一度逆回転したのはおかしいですよ」



788 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:32:00 ID:9j0TgqFm0

5人目が消えたなんていうバカ話に真剣になったわけではない。
ただ師匠がなにか隠しているような顔をしていたからだ。
「それさえ、実際はなかったことを5人目消滅の辻褄あわせの
 ために作られた記憶だとしたら、ストーリー性がありすぎて
 不自然な感じがするし、なんでもアリもそこまでいくとちょ
 っと引きますよ」
「ローシュタインの回廊を知ってたのは、追加ルールの言いだ
 しっぺのオトコオンナだったね。じゃあ、実際の追加ルール
 はこうだったかも知れない『1.途中で一人抜けていい。
 2.誰もいない隅に来た人間が、次のスタート走者となり、
 方向を選べる』とかね」
なんだかややこしい。
俺は深く考えるのをやめて、師匠を問いただした。
「で、なにがそんなに面白いんですか」
「面白いっていうか、うーん。最初からいなかったことになる
 神隠しってさ、完全に過去が改竄されるわけじゃないんだよね。
 例えば、誰のかわからない靴が残ってるとか、集合写真で一
 人分の空間が不自然に空いてるとか。そういうなにかを匂わ
 せる傷が必ずある。逆に言うとその傷がないと誰も何か起っ
 てることに気づかない訳で、そもそも神隠しっていう怪談が
 成立しない」
なるほど、これはわかる。
「ところでさっきの話で、一箇所だけ違和感を感じた部分がある。
 キャンプ場にはレンタカーで行ったみたいだけど・・・・・・」
4人で行ったなら、普通の車でよかったんじゃない?
師匠はそう言った。


789 名前: 四隅   ラスト 2006/08/28(月) 21:32:41 ID:9j0TgqFm0

少なくとも京介さんは4人乗りの車を持っている。
わざわざ借りたのは師匠の推測の通り、6人乗りのレンタカー
だった。
確かにたかが1泊2日。ロッジに泊まったため携帯テントなど
キャンプ用品の荷物もほとんどない。
どうして6人乗りが必要だったのか。
どこの二つの席が空いていたのか思い出そうとするが、あやふ
やすぎて思い出せない。
どうして6人乗りで行ったんだっけ・・・・・・
「これが傷ですか」
どうだかなぁ。ただアイツが言ってたよ。かくれんぼをしてた
時、勝負がついてないから粘ってたって。かくれんぼって時間
制限があるなら鬼と隠れる側の勝負で、時間無制限なら最後の
一人になった人間の勝ちだよね。どうしてかくれんぼが終わら
なかったのか。あいつは誰と勝負してたんだろう。
師匠のそんな言葉が頭の中をあやしく回る。
なんだか気分が悪くなって、逃げ帰るように俺は師匠の家を出
た。
帰り際、俺の背中に「まあそんなことあるわけないよ」と師匠
が軽く言った。
実際それはそうだろうと思うし、今でもあるわけがないと思っ
ている。
ただその夜だけは、いたのかも知れない、いなくなったのかも
知れない、そして友達だったのかも知れない5人目のために、
祈った。
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